今回は、アスベスト(石綿)について健康被害を中心に取り上げます。

建築資材などに含まれるアスベストによる健康被害は、1990年代からニュースでたびたび取り上げられてきました。2005年には、大規模な訴訟により「アスベストショック」と呼ばれ社会問題となったことが、記憶に新しい方も多いと思います。

健康へ悪影響を及ぼすアスベストが、21世紀初めまで建築資材を中心に使われ続けてきた大きな要因は、値段が安く耐火性・断熱性・防音性・絶縁性に優れているなど、多くの利点があったためです。

しかしアスベストは、発ガン性による健康被害が明らかになったことから、1975年から段階的に規制が厳しくなり、2006年からは全面的に使用が禁止されています。

新たに建物を購入される場合は、アスベストが使われていないか気になる方も多いと思います。アスベストの使用率は、建物の建築年における法規制と密接に関わってきます。

建築年から見るアスベスト含有率

アスベストの人体への危険性は、1960年代から指摘されていますが、実際に法規制が始まったのは1975年からです。その後、アスベスト規制は段階的に強化され、2006年に全面禁止となって現在に至ります。

(1)1975年(5%を超える場合は禁止)
「特定化学物質等障害予防規則」の改正により、アスベストの含有率が5%を超える建築が禁止される。

(2)1995年(1%を超える場合は禁止)
「労働安全衛生法施行令」の改正により、アスベスト含有量が重量の1%を超える場合は吹き付けが禁止される。

(3)2006年(全面禁止)
「建築基準法」および「労働安全衛生法施行令」の改正により、アスベストが0.1%を超えて含有する物の製造・使用等が全面禁止される。

参照元:厚生労働省「アスベスト全面禁止のパンフレット」

このように、アスベストは段階的に規制が強化された経緯から、建物の建築年数が古いほど含有率が高い傾向があります。特に、1975年以前に建設された鉄筋コンクリートの建物は、注意が必要です。

アスベストの健康被害とは?

2006年にアスベストが全面禁止となった背景にあるのが、前年2005年に起きた「アスベストショック」と呼ばれる集団訴訟事件です。集団訴訟では、アスベストの健康被害が争点となり、社会全体に知られるきっかけとなりました。

アスベストの健康被害とはどのようなものでしょうか。厚生労働省によると、長期間アスベストを吸い続けた結果として起こる健康被害は、3つの症状があります。

(1)石綿(アスベスト)肺
肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つで、職業上アスベスト粉塵を10年以上吸入した労働者に起こると言われています。潜伏期間は15~20年と言われており、アスベスト吸入をやめたあとでも進行する場合があります。

(2)肺がん
肺細胞に取り込まれた石綿(アスベスト)繊維による物理的刺激が主な原因で、肺がんが発生するとされています。アスベスト吸入から肺がん発症までに15~40年の潜伏期間があり、吸入量が多いほど発生が多いことが知られています。

(3)悪性中皮腫
胸膜・腹膜・心膜等にできる悪性の腫瘍です。若い時期にアスベストを吸い込んだ方の方が悪性中皮腫になりやすいことが知られており、潜伏期間は20~50年と言われています。

これらの3つの健康被害は、長期間アスベストを吸入した場合には、高い確率で起こることが分かっています。では、アスベストの吸入が短期間の場合はどうかと言うと、不明な点が多いのが現状です。現時点では、どれくらいの期間アスベストを吸うと、症状が現れるのかは明らかではありません。

「アスベストの吸入が、短期間であれば問題ない」というわけではありません。どんなに短期間であっても、アスベストを吸うリスクのある環境には、身を置かないことがベストです。

参照元:厚生労働省「アスベスト(石綿)に関するQ&A」

重要事項説明(重説)でのアスベスト説明義務の落とし穴とは?

アスベストを吸うリスクを減らすためにも、築年数の古い建物を購入する時には、アスベストが使われていないか確認することが重要です。不動産取引において、必須の重要事項説明(重説)でも、アスベストの説明義務がありますが、大きな落とし穴があります。

誤解されている方も多いのですが、重説で義務づけられているのは、建物へのアスベスト使用について調査した「レポート」が有るかどうかだけです。建物が、アスベスト調査済みでレポートを作成していれば、その有無はわかります。調査レポートで、アスベストの使用が確認された場合は、購入を見送るという選択肢もあります。

しかし、調査自体を行っていなければ、アスベストが使われているかどうかも分かりません。アスベスト使用の有無がわからなければ、あった場合の「飛散防止対策」も行われていないので、健康被害のリスクが発生します。

アスベスト調査未実施の場合は、解体時に調査が必要

アスベスト調査未実施の古い建物を購入した場合、健康被害のリスク以外にも注意点があります。建物の解体時には、アスベストの事前調査が法律で義務づけられているため、別途費用が発生するからです。

アスベスト調査は、建物の条件によって変わりますが、5~20万円ほどの費用がかかります。さらに調査の結果、アスベストがあると判明した場合、作業員の方や周辺住民の方への健康被害を防ぐため、解体前の除去作業が必要です。

なぜ解体前かと言いますと、アスベストは建物の解体作業時に空気中に飛散するリスクが高いからです。アスベストが飛散した場合、作業員の方はもちろんのこと周辺住民の方へも健康被害の恐れがあります。

アスベストの除去作業には、解体工事とは別に費用が必要です。その金額は、主にアスベストの「危険レベル」と「処理面積」よって決まります。

アスベストの危険レベルとは?

アスベストは、その使用方法によって飛散性が異なります。飛散性が高いほど危険度が上がるので、その対策に費用がかかります。建設業労働災害防止協会では、アスベスト関連作業時の健康被害防止のため、その危険度に応じて3つのレベル分けを行い、レベルごとに必要な対策を示しています。

・レベル1:発じん性が著しく高い作業
石綿(アスベスト)含有吹付け材の除去作業および封じ込め・囲い込み作業が該当します。
石綿(アスベスト)の厳重なばく露防止対策が必要です。

・レベル2:発じん性が高い作業
石綿(アスベスト)含有保温材・断熱材・耐火被覆材の除去作業および囲い込み作業が該当します。レベル1に準じた、高いレベルのばく露防止対策が必要です。

・レベル3:発じん性が比較的低い作業
石綿(アスベスト)含有建材(成形板等)の除去作業が該当します。湿式作業を原則として、発じんレベルに応じた防じんマスク、保護衣・作業衣等の使用が必要です。

参照元1:国土交通省「目で見るアスベスト建材」
参照元2:国土交通省「アスベストの飛散性・非飛散性とレベル1~3の整理」

建物解体時のアスベスト除去費用はどれくらいかかるの?

アスベストの除去費用は、主に前述の「危険レベル」と「処理面積」によって決まります。
では、アスベスト除去にはどれくらい費用がかかるのでしょうか。2008年に国土交通省は、(社)建築業協会の調査結果をもとに「吹きつけアスベスト除去費用のめやす」を公表しています。

吹き付けアスベスト処理費用(1㎡あたり単価)のめやすは、以下となります。
(仮設、除去、廃棄物処理費等全ての費用を含む)

(1)アスベスト処理面積300㎡以下の場合
2.0万円/㎡~8.5万円/㎡

(2)アスベスト処理面積300㎡~1,000㎡の場合
1.5万円/㎡~4.5万円/㎡

(3)アスベスト処理面積1,000㎡以上の場合
1.0万円/㎡~3.0万円/㎡

※本調査は12年前に行われているので、多少変動している可能性があります。

参照元:国土交通省「石綿(アスベスト)除去に関する費用について 他資料」

例えば、アスベスト処理面積100㎡の建物を解体する場合、解体費用とは別に200万円~850万円もの除去費用が必要です。このようにアスベスト除去は、多額の費用がかかるので、前もって除去費用を積み立てるなどの準備が必要です。もし、資金面で何の準備も行わなければ、解体自体が行えない可能性もあります。

また今後、建て替えが予定されているような古い物件を購入する場合は、アスベスト除去も考慮に入れなければならないので、注意が必要です。

一部自治体では、アスベスト関連の補助金もあり

国土交通省の推計によると、アスベストを使用している可能性のある建物の解体工事は、平成が始まった1988年から増加の一途をたどっています。その数は、8年後の2028年にはピークを迎えて、10万棟にのぼると見込まれています。

参照元:中央環境審議会大気・騒音振動部会 石綿飛散防止小委員会(第一回)
資料4「今後の(アスベスト関連建物の)解体等工事件数の増加について」

このように、増加するアスベスト関連建物の解体をスムーズに進めるため、一部の自治体ではその調査や除去を対象にした補助金制度を設けています。

参照元:厚生労働省 アスベスト対策Q&A「補助金制度」

東京都の場合、23区のうち千代田区、港区、新宿区、台東区、品川区、目黒区、大田区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区の合計11区で、補助金制度を設けています。補助金の対象範囲と金額は、区によって異なります。

上記、東京都11区の補助金の概要とお問い合わせ先は、以下のページをご参照ください。

参照元:東京都都市整備局「東京都内アスベスト補助制度一覧(除去等工事)」

まとめ

今回は、アスベストについてその健康被害と除去作業を中心に取り上げました。

建物へのアスベスト使用は、1975年に規制が始まった後に段階的に規制が強化され、2006年に全面禁止されています。このように、段階的に規制強化された経緯から、建物の建築年数が古いほど、アスベストの含有率が高い傾向があります。特に、1975年以前の古い建物を購入される場合は、アスベスト調査レポートの有無には注意が必要です。

調査レポートから、アスベストの使用が判明した場合は、建物の解体前に除去作業が必要です。調査レポートがない(調査未実施)の場合は、健康被害のリスクがあると同時に、解体前の調査義務づけられているため、特に注意が必要です。

アスベスト問題は、様々な要素が関わってくるのでとても複雑です。そこで、アスベストが心配な方は、

アスベストが全面禁止となった2006年以降に建てられた、築浅の物件を選ぶ。
・マンションの場合は、全体でアスベスト調査を行なっている物件を選ぶ。
・アスベスト問題に詳しい、信頼できる専門家に相談する。

など、アスベストによる健康面・経済面でのリスクを減らすための対策をおすすめします。