同じ物件が違う不動産会社から紹介されるのはなぜ?

こちらの記事で解説したように、必ずしも売主から依頼されている不動産会社だけが物件の販売活動を行っているわけではありません。

基本的に不動産会社は売り主から直接依頼されている物件以外は「レインズ」という情報サイトから図面をダウンロードして、自社の帯(会社名や連絡先が入ったもの)にチェンジ(=帯チェン)しています。

今回は、販売図面の「帯」に隠された“業者間のメッセージ”について解説していきたいと思います。
このメッセージが解読できれば、不動産を購入される方、賃貸される方がより有利に取引できるかもという想いで解説していきたいと思います。

販売図面は基本的にはお客様向け

不動産エージェント

不動産における販売図面とは、その不動産の情報がギュっと濃縮された「名刺」や「履歴書」のようなものです。

  • 価格
  • 間取り
  • マンション名
  • 立地(土地戸建は住所が特定されないようになっていることも)
  • 広さ
  • 築年数
  • 間取り

このような情報が記載されているものが、販売図面。
業界用語では「マイソク」といわれることもあります。

販売するための図面ですから、販売図面は基本的にお客様向けです。
ただ販売図面には必要な情報が過不足なく記載されていることから、不動産会社が他社の物件情報を得るためにも使用されます。

業者間のメッセージが隠されているのは「帯」

販売図面を作った不動産会社から他社へのメッセージが隠されているのは、下部の「帯」の部分。この右側に、小さい字で以下のような文字が記載されていることがあります。

  • 取引態様
  • 手数料
  • 〇%
  • AD

おそらく「なんのこっちゃ?」という感じだと思いますので、次項から「売買物件」と「賃貸物件」に分けて解説します。

売買物件の帯に隠されたメッセージ

売買物件の帯には、「取引態様」や「手数料」といった文字が記されていることが多いもの。
これは、広告主の不動産会社の“立場”を表しています。

取引態様

  • 取引態様:売主
  • 取引態様:専任媒介
  • 取引態様:代理

販売図面のすべてに記載があるのが、「取引態様」という言葉です。
こちらは業者間のメッセージであるとともに、「不動産の表示に関する公正競争規約」によって不動産広告への記載が義務付けられています。

不動産における「取引態様」とは、簡単にいえば不動産会社の立ち位置のこと。広告主の不動産会社が、どのよう立場でこの物件に関わっているのか?がわかります。

売主

取引態様:売主

この表示は、広告主自身が売主の物件ということです。
つまり、不動産会社が仲介しているのではなく、売主の不動産会社自らが広告を出しています。

不動産会社が売主の物件は、仲介手数料が不要であったり、住宅ローン控除の上限が引きあったりする点がメリットだといえるでしょう。
ただ仲介者がいないことにより、状況の確認が十分できず(しっかりしてくれる売主さんもいます)、価格の交渉等もしにくい……など、場合によってはデメリットと考えられることもあります。

ただ、取引態様が「売主」となっている物件の中には、仲介会社を挟めない取引も存在しますし、仲介手数料不要のケースもあります。

媒介・仲介

取引態様:媒介
取引態様:仲介
取引態様:専任媒介

この表示は、不動産会社が売主と媒介契約を交わしているということです。

媒介契約とは、売主が不動産会社に仲介を依頼するための契約。
表示が「媒介」でも「仲介」でも同じ意味と考えて問題ありません。

なかには、「媒介」の前に「一般」や「専任」「専属専任」などの単語がくっついていることがありますが、これは媒介の種類です。

「専任媒介」「専属専任媒介」は、その不動産会社が販売活動する独占権を持っている状態であり、「一般媒介」は複数社が販売活動している可能性があります。

代理

取引態様:代理

この表示は、売主の販売活動を代理している不動産会社が出している広告という意味です。

不動産会社は「売主の代理」ですので、「仲介」にはあたらず、仲介手数料不要のケースが多いと思います。
ただ100%ではありませんので、仲介手数料の扱いについてはしっかり確認しておきましょう。

手数料

取引態様が「媒介」もしくは「仲介」となっていれば、手数料に関する記載があるケースもあります。

分かれ

手数料:分かれ
これは、「買主は買主が依頼した不動産会社に仲介手数料を支払い、売主は売主が依頼した不動産会社に仲介手数料を支払います」という意味です。
不動産の仲介には、1社が買主も売主も担当する「両手仲介」と、それぞれ別の不動産会社が担当する「片手仲介」がありますが、「手数料:分かれ」となっていれば片手仲介になります。

〇%の記載

  • 手数料:3%
  • 〇%

取引態様が「仲介」や「媒介」となっているときは、小さく「3%」などと記載があることもあります。
これは、仲介手数料の料率。

つまり、物件価格の3%が仲介手数料として業者に支払われるということです。

賃貸物件の帯に隠されたメッセージ

賃貸物件においても、販売図面の帯に「取引態様」の記載があります。「媒介・仲介」「代理」は売買物件と同様で、賃貸物件の場合は「売主」ではなく「貸主」となります。

また賃貸の場合は、「のっけOK」「個人バック可」「AD」など、さらに分かりにくい単語が並ぶこともあります。

のっけ

「のっけ」とは、簡単にいえば“仲介手数料に「のっけて」還元しますよ”という意味です。

たとえば礼金が0ヶ月の物件においても、お客様に対しては「礼金1ヶ月ですよ」と提示し、のちのち礼金と称した費用を仲介会社にバックします。
(ぜんぜん素敵なメッセージではないですね)

個人バック

「個人バック」もまた「のっけ」と同じような意味ですが、会社にお金を入れるのではなく、営業マン個人にバックします。

こちらも仲介手数料を法律で定められた上限額を貰っているのであれば、個人的にはNGだと思っています。

AD100(賃貸のとき)

「AD」とは、「広告料」といわれています。

オーナーさん次第ではありますが、自らが依頼した不動産会社(元付け業者)だけでなく、借主を紹介してくれた不動産会社(客付け業者)に「広告料」として支払われるケースがあります。

安価な賃料の物件や条件が悪く決まりづらい物件(築古・駅から遠い・階段のみなど)、逆に新築物件で早く満室にしたい物件などは、ADが100〜200%(賃料の1ヶ月〜2ヶ月分)つくことも。
法律で受領できる仲介手数料の上限額は決まっているものの、「貸主の意向で特別な広告活動を行った場合、不動産会社は別途、広告費を請求できる」という取り決めがあります。

不動産会社は、賃貸仲介に伴う報酬が貸主・借主それぞれから賃料の0.5ヶ月分を超えてはいけないと法律で決まっています。(依頼者からの承諾があれば一方から賃料の1ヶ月分を受領することも可能)

100%貸主様のご意向であれば法には触れないのでしょうが、一般的な広告活動しか行っていなかったり、半ば強制的にこれらの費用を請求していたりすれば違法となってしまいます。

まとめ

今回は、不動産の販売図面の「帯」にある“業者間のメッセージ”について解説しました。

普段何気なくご覧になっている販売図面には、実は不動産会社の立ち位置や取引形態、そしてお客様には伝わらない報酬の存在などが記載されています。
「業界の秘密を暴露したい」というわけではなく、この部分はお客様にも知る権利があると思い、今回お伝えさせていただきました。

たとえば、「取引態様」についてはご自身が支払う仲介手数料にも影響する部分です。

次回、販売図面をご覧になるときは、物件の価格や情報のみならず、取引態様などの情報にも目を向けてみてください。
「よく分からない」という方には分かりやすくご説明させていただきますので、該当の販売図面や物件情報が掲載されたURLとともにご連絡ください。